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撃沈日記② 初めてマッチングした夜、テンションが上がりすぎて失敗した話

通知が来たのは、会社から帰ってきた夜のことだった。

夕食を終えて、食器を洗って、テレビをつけたまま特に見るでもなくソファに座っていた。なんとなくスマートフォンを手に取って、なんとなくアプリを開いた。

そこに、見慣れない赤いマークがついていた。

マッチング、という通知だった。

前回「いいね」を送った、あの人から。

心臓が、少しだけ速くなった。いや、正直に言う。少しどころではなかった。


プロフィールを何度も読み返した

マッチングしました、という画面が表示されて、私は何をしたかというと——その人のプロフィールを、もう一度最初から読み返した。

一度ではなく、三度読んだ。

料理が好きで、週末はよく出かけている。自己紹介文の最後に「のんびりした時間が好きです」と書いてあった。屋外で撮られた写真は、木漏れ日の中で笑っていた。

なぜ三度も読んだのかは、自分でもよくわからない。

たぶん「本当にマッチングしたのか」を確かめたかったのだと思う。または、「この人はどんな人なんだろう」という気持ちを、もう少し長く持っていたかったのかもしれない。

三度目を読み終えて、画面を閉じた。

そして気づいた。メッセージを送らなければならない。


最初のメッセージを送るまでに30分悩んだ

マッチングしたら、最初にメッセージを送るのは男性の方からだろう——そう思った。少なくとも、私はそう思った。

問題は、何を書くかだ。

「はじめまして」は当然として、その後に何が来るのか。

テキスト入力欄を開いて、「はじめまして」と打った。そこで止まった。

「プロフィールを拝見しました」——これは当たり前すぎないか。 「料理がお好きなんですね」——いきなり趣味の話は唐突か。 「のんびりした時間が好きということで」——何がいいたいんだ私は。

下書きしては消し、打っては止まり、を繰り返すこと30分。

テレビはいつの間にかニュースになっていた。

53歳の男が、ソファでうんうん唸りながらスマートフォンを睨んでいる。我ながら、なんとも言えない絵面だった。


テンションが上がりすぎて長文メッセージを送ってしまった

30分悩んだ末に送ったメッセージが、これだ。

「はじめまして。プロフィールを拝見して、料理がお好きとのことで親近感を覚えました。私も料理は好きで、週末は自炊することが多いです。最近はカレーにはまっていて、スパイスから作るようにしました。木漏れ日の中で撮られたお写真もとても素敵でした。どこかの公園でしょうか?私も散歩が好きで、近所の公園をよく歩いています。よければいろいろとお話しできたら嬉しいです。どうぞよろしくお願いします。」

……送信してから、30秒後に気づいた。

長い。

長すぎる。料理の話、スパイスの話、写真への感想、散歩の話——詰め込みすぎだ。初対面の相手に、一度にこれだけ送るのは「圧」がある。

でも、送ってしまったものは取り消せない。

テンションが上がって、「あれも伝えたい、これも伝えたい」となった結果だった。落ち着いて読み返せば一目瞭然なのに、送信ボタンを押した瞬間はまったく気づかなかった。

興奮しているときの自分判断を、信用してはいけない。これが最初の教訓だった。


返信が来るまでの間、スマホを手放せなかった

送信した。

あとは待つだけだ。

……わかっている。すぐに返信が来るわけがない。相手にも生活があって、スマートフォンをずっと見ているわけではない。それはわかっている。

わかっているのに、スマートフォンを置けなかった。

5分おきに画面をつけて確認する。通知なし。また置く。3分後にまた確認する。通知なし。

テレビは終わって、気づけば深夜の情報番組になっていた。

「落ち着け」と自分に言い聞かせながら、お茶を淹れた。キッチンに立っていても、頭の中ではアプリのことを考えていた。

寝る前にもう一度だけ確認しようとスマートフォンを手に取ったとき——通知が来ていた。


返信が来たときの喜びと、すぐ返しすぎた反省

返信の内容は、こうだった。

「はじめまして。スパイスからカレーを作るんですね、すごいです!私は料理は好きですが、そこまでは挑戦したことがなくて(笑)写真は近所の公園です。散歩がお好きなんですね。」

読んで、私は少し声を出して笑った。

返ってきた。本当に返ってきた。

喜びのあまり、即座に返信した。

「ありがとうございます!スパイスカレーはぜひ挑戦してみてください、意外と難しくないですよ。公園はご近所なんですか?私もよく散歩するので、いつかご一緒できたら楽しいですね!どんな料理を作るのが好きですか?」

これも、送ってから気づいた。

「いつかご一緒できたら」は早すぎた。まだ二往復目だ。

そして返信の速さ——深夜に届いたメッセージに、深夜に即返しした。相手はもう寝ていたかもしれない。それでも即返信してしまったということは、「スマートフォンをずっと握っていた人」がバレてしまった。

既読はついた。返信はなかった。

「もう寝たのだろう」と思って、私も布団に入った。


話が盛り上がったと思ったのに翌日突然返信が来なくなった

翌日の夕方、返信が来た。

料理の話・休日の過ごし方・好きな食べ物——会話は続いた。私も気をつけて、短めに返すようにした(昨夜の反省を活かした)。

二日間で、二十往復近くやりとりした。

「これはうまくいっているのでは」と思った。

思ったのが、よくなかった。

三日目の朝、私からメッセージを送った。返信は来なかった。

夕方、もう一度送った。既読がついた。返信は来なかった。

夜になっても、来なかった。


既読スルーの意味を考えすぎて眠れなかった夜

布団の中で、考え続けた。

何がよくなかったのか。三日目の朝に送ったメッセージは、短く、無難な内容だったはずだ。「今日はお休みですか?」という一文だった。何がいけなかった。

いや、もしかしたら三日目の問題ではなく、最初の長文が原因だったのか。あの長文で「重い人」という印象がついていたのか。または「いつかご一緒に」という早すぎた一言か。

考え始めると、止まらなくなった。

「既読スルー」という状態は、答えが出ない問いを無限に生む装置だと思う。

相手の事情はまったくわからない。急に忙しくなったのかもしれない。他に気になる人ができたのかもしれない。単純に疲れていて返信する気力がないだけかもしれない。

でも人間というのは、答えがないと「自分のせいだ」と考え始める。特に、すでに反省点が複数ある状態では。

時計は2時を過ぎていた。

明日も仕事なのに、と思いながら、翌朝5時まで眠れなかった。


失敗から学んだこと・次回への教訓

数日後、やはり返信は来なかった。

縁がなかったのだ、と受け入れるまでに、一週間近くかかった。

今になって振り返ると、失敗の原因はだいたい見えている。

反省点1:最初のメッセージに詰め込みすぎた

興奮していると「あれも言いたいこれも言いたい」になる。でも相手にとっては「圧」でしかない。最初は短く・一つだけ話題を投げるのが正解だった。

反省点2:即返しして「ずっとスマホを見ていた人」がバレた

返信速度は「熱量」でもあるが「余裕のなさ」にも見える。特に深夜の即返しは、生活リズムへの不安を与えることもある。

反省点3:まだ二往復目なのに「いつかご一緒に」と言った

段階を飛ばしすぎた。関係が温まっていない段階で「会う」を匂わせると、相手は引く。

反省点4:既読スルーを深読みしすぎた

理由はわからない。わからないのに眠れなくなるまで考えた。これは完全に時間と体力の無駄だった。

一番の教訓は「テンションが高いときの自分の判断を信用しない」ということだ。

送る前に一度だけ読み返す。それだけで、かなりのことが防げた。


次回:懲りずにいいねを送り続けた話

一週間落ち込んで、しかし私はアプリをやめなかった。

やめなかった理由は、よくわからない。強いて言うなら「またあの通知が来たときの気持ちを感じたい」という単純な動機だったと思う。

初めてマッチング通知が来たとき、心臓が速くなった。あれは本物だった。

懲りない53歳は、懲りずにいいねを送り続ける。

次回は、数打てば当たる作戦の顛末について書こうと思う。


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