日記⑦で書いた通り、Cさん(仮名)から「また会いたいですね」という言葉をもらった。
53歳にして初めてもらった「また会いたい」だった。家に帰ってひとりでガッツポーズをして、ビールを飲んで、「よかった」とつぶやいた夜のことは、今でも覚えている。
そして2回目のデートを迎えた。
結論から言う。雰囲気は最高だった。でも、会計の一瞬がすべてを変えた。
デートの雰囲気は、本当によかった
待ち合わせ場所に現れたCさんは、前回より少し表情が柔らかかった。初対面の緊張が取れて、会いに来てくれたという雰囲気があった。
「また来てくれた」と思ったら、素直に嬉しかった。
席についてからの会話は弾んだ。前回話しかけていた話の続き、Cさんの趣味の話、私の最近ハマっていること——話題に困る瞬間が一度もなかった。
笑いもあった。Cさんが「先週やらかしてしまって」と話してくれた小さな失敗談に、私も似たような話を返して、二人で笑った。その瞬間、「あ、この人と一緒にいるのが楽しい」と素直に思えた。
デートは順調だった。2時間があっという間だった。「楽しかった」という言葉が、計算ではなく本心から出てくる感じがあった。
問題は、会計の瞬間に起きた。
財布を出すタイミングを、迷いすぎた
食事が終わり、デザートが来て、そろそろ帰ろうかという空気になった。
そのとき私の頭の中では、考えが高速で回転していた。
「奢るべきか。でも同年代だし、押しつけがましいかな」「割り勘を提案すべきか。でもケチに見えるかな」「Cさんが財布を出したら、さりげなく払うべきか」「でも相手が出そうとしているのに先に動くのも変か」——
迷っている間に、店員さんが伝票をテーブルに置いた。
Cさんが「あ、割り勘でいいですよ」と言った。
私は「……そうですか、では」と言った。
言った瞬間に、なんとなくわかった。「あ、これは失敗した」と。
「割り勘でいいですよ」を、真に受けてしまった
Cさんの「割り勘でいいですよ」という言葉は、おそらく気遣いだった。
「私も出しますよ」という意思表示でもあり、「どうぞ気を遣わないでください」という配慮でもあったのだと思う。でも裏側には「払ってくれたら嬉しい」という気持ちが少しあったかもしれない——そういう可能性を、私は考えられなかった。
「では」と言いながら財布を出した自分が、そのとき急に情けなく思えた。
スマートな男性なら、「いいえ、今日は私に払わせてください」と言えたはずだ。あるいは、「では今日は私が、次は○○さんに」と笑顔で言えたはずだ。
それが出てこなかった。迷いすぎて、相手の言葉をそのまま受け取ってしまった。
会計後、相手の表情が変わった気がした
割り勘で精算した後、Cさんは「ありがとうございます」と言った。笑顔だった。
でも私には、その笑顔がほんの少し変わった気がした。
「気のせいかもしれない」と思いながら、出口に向かった。外に出て歩きながら話した。でも、食事中と比べて、会話の弾み方が少し違うような気がした。
気のせいかもしれない。でも気になった。
「何か変わった?」と聞くわけにもいかない。「会計のことが気になった?」と聞くのも変だ。だから私はそのまま、「今日もありがとうございました」と言って、解散した。
電車に乗って、座席に座りながら、ずっと考えていた。
家に帰ってから、何度も思い返した
家に着いて、コートを脱ぎながら、また考えていた。
「あの瞬間、なぜすぐ動けなかったのか」「相手の言葉を真に受けずに、さりげなく先に払えばよかった」「『次は私が出しますよ』くらいは言えたはずだ」
同じシーンを、頭の中で何度も再生した。毎回、違う選択をする自分が出てくる。毎回、「それでよかったのに」と思う。でも現実は変えられない。
ビールを開けた。日記⑦のときと同じように。でも今夜の気持ちはまったく違った。
あのときはガッツポーズをした。今夜は「なんでできなかったんだ」と自分に言っていた。
53歳にもなって、会計ひとつでこんなに悩んでいる自分が、少しおかしかった。でも笑えなかった。
友人に相談したら「それは奢るべきだったよ」と言われた
翌日、同年代の友人(既婚・男性)に話した。
聞き終えた友人は「それは奢るべきだったよ」と言った。
「でも相手が割り勘でいいって言ったし」と私が言うと、「それは社交辞令だよ」と返ってきた。「50代の女性でも、払ってもらえたら嬉しい場面はあるよ。特に2回目は様子を見てるはずだ」
「じゃあ最初から払う流れにすれば良かったのか」「そう。迷ってる時点でダメだよ。素直に先に動けばよかった」
そう言われると、確かにそうだった。
迷ったのが問題だった。迷いが表情に出ていたかもしれない。迷った末に相手の言葉に従ったから、「主体性のない男」に見えたかもしれない。
会計は、内容より「迷わずに動けるかどうか」が大事だったんだと気づいた。
次の誘いへの返信が、なかなか来なかった
翌々日、「先日はありがとうございました。また会えたら嬉しいです」とメッセージを送った。
返信が来るまでの時間が、いつもより長かった。
1時間後、既読がついた。でも返信は来なかった。
夕方になって、ようやく返信が来た。「こちらこそありがとうございました。楽しかったです」という内容だった。
悪い返信ではない。でも何かが足りない気がした。1回目のデートの後の返信と比べると、文章が短かった。「また」という言葉がなかった。
「やっぱり何か変わったのか」「それとも気にしすぎか」——また考え始めた。
結果:返信は来た。でも、温度が少し下がっていた
その後もやり取りは続いた。完全に途絶えたわけではない。
でも、日記⑦のときの「また会いたいですね」という言葉の温度と比べると、明らかに下がっていた。
「3回目のデートに誘いたい」「でもこの状態で誘っていいのか」という迷いが続いた。
結局、2週間後に「よかったらまた食事でも」と誘った。返信は「少し予定が立て込んでいて……落ち着いたらご連絡します」だった。
いわゆる、保留だ。
気づいた教訓:「会計は技術より気持ち」
この一件を通じて、私が出した結論がある。
会計に正解はない。でも、「この人のために払いたい」という気持ちが行動に出るかどうかが、すべてだった。
「奢るか割り勘か」という技術的な問題より、「この場を大切にしたい」という気持ちが先にあれば、自然に体が動く。迷わずに動ける。
私が迷ったのは、技術を知らなかったからではなく、「この場を大切にしたい」という気持ちが、行動に追いついていなかったからだと思う。
頭では「2回目のデートだし、払ったほうがいい」とわかっていた。でも体が動かなかった。その一瞬のためらいが、相手に「この人は、どちらでもいい人なんだな」と伝わってしまったかもしれない。
次こそ、スマートにやる
Cさんとの関係は、今も「保留」のままだ。
3回目のデートが実現するかどうかは、まだわからない。正直、難しいかもしれないとも思っている。
でも、この経験から学んだことは確かにある。
会計は、技術の話ではなく、気持ちの話だ。「この人のために払いたい」という気持ちが、迷いなく体を動かせるかどうか——そこに、スマートさがある。
次に誰かと会うとき。私はもう迷わない。財布を出すタイミングより、「この場を大切にしたい」という気持ちを先に持つ。そうすれば、体は自然に動く。
53歳、バツイチ、撃沈8回目にして、ようやくそれがわかった。
遅い。でも、わかった。
次回の撃沈日記⑨では、Cさんとの関係のその後と、新しいマッチングについて書く予定です。保留の答えが出るのか——続きをお楽しみに。