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撃沈日記⑦ 初めて「また会いたい」と言われた夜のこと

正直に言う。今回も「まあ、どうせうまくいかないだろうな」と思いながら向かった。

日記⑥でBさんに断られてから、新たにCさん(仮名)とマッチングして、やり取りが続いていた。デートの約束まで取り付けたとき、嬉しい気持ちはあった。でもどこかで「どうせまた緊張して、油断して、また終わるんだろうな」という諦めも同居していた。

半年近く撃沈を繰り返してきた人間の、正直な心境だ。

そんな気持ちを抱えたまま、私は待ち合わせの場所に向かった。


今回は「聞くこと」だけを目標にした

Cさんと席についてから、私はひとつだけ決めていたことを思い出した。

「今日は盛り上げようとしない。ただ聞くことに集中する。」

日記④で緊張しすぎて何も話せなかった。日記⑤で油断して自分語りを押しつけた。その反省から出てきた、シンプルな目標だった。

話題を用意しないわけではない。でも「面白いことを言わなければ」「うまく場を回さなければ」という気負いを、今回は手放してみた。

Cさんが話し始めたとき、私はただ聞いた。相槌を打ちながら、「それってどういうことですか?」と続きを促しながら。


愚痴が来た。でも今回は違う返し方をした

食事が半分ほど進んだころ、Cさんが少し表情を曇らせながら言った。

「最近、職場の人間関係がちょっと疲れていて……」

以前の私なら、ここで「それならこうしたらどうですか」とアドバイスを出していた。日記⑤のときみたいに「私も昔、職場でそういうことがあって」と自分の話に切り替えていた。

でも今日は違った。

「それは疲れますよね。どんなことがあったんですか?」

それだけ言って、あとは聞いた。

Cさんは少し驚いたような顔をしてから、話し続けてくれた。職場の上司のこと、同僚との微妙な関係、誰にも言いにくかったこと。私はただ「そうですか」「それは大変でしたね」「それで、どうなったんですか?」と続けた。

アドバイスはしなかった。評価もしなかった。ただ聞いた。

話し終えたCさんが「……なんかすっきりした。聞いてくれてありがとうございます」と言ったとき、私の中で何かが静かに手応えを感じた。


沈黙が怖くなくなっていた

デートが続くにつれて、いくつか沈黙の場面があった。

以前の自分なら、沈黙を必死に埋めようとしていた。何か言わなければ、何か話題を出さなければ、と焦って、結果としてちぐはぐな話を始めてしまっていた。

でも今日は違った。

沈黙が来ても、私はコーヒーカップを持ちながら、ゆっくりとCさんの顔を見ていた。

焦りがなかった。沈黙は「埋めなければいけない穴」ではなく、「会話の呼吸」だということが、身体でわかってきた気がした。

Cさんもその沈黙の中でゆっくりと次の話題を選んでいたようで、少し間があってから「そういえば……」と話し始めてくれた。


解散間際の、あの一言

2時間ほど話して、そろそろ帰ろうかという空気になった。

出口に向かいながら、私は「今日は楽しかったです」と言った。本心だった。うまくいったかどうかより、純粋に楽しかった。

すると、Cさんが少し照れたような顔で言った。

「私も楽しかったです。……また会いたいですね」

私は一瞬、聞き間違えたかと思った。

また、会いたい。

半年近くマッチングアプリを使って、何人もの方と会って、何度も撃沈してきた。でも「また会いたい」という言葉を、面と向かって言ってもらったのは初めてだった。

「ぜひ」と答えた私の声が、少し上ずっていたかもしれない。


家に帰って、ひとりでガッツポーズをした

電車に乗って、家に着いて、ドアを閉めた瞬間。

私はひとりで小さくガッツポーズをした。

誰も見ていない。部屋には誰もいない。でも、した。53歳の男が、ひとりの部屋でガッツポーズをした。

それがおかしくて、少し笑えた。そして、なんだか温かい気持ちになった。

ビールを一本開けて、ソファに座りながら、「よかった」とひとりごとを言った。結果がどうなるかはまだわからない。でも今夜は、それで十分だった。


何が変わったのかを振り返ってみた

少し落ち着いてから、今夜うまくいった理由を冷静に考えてみた。

話を聞く姿勢が変わった

日記⑤で相手の話を遮って自分語りをした反省から、「今日は聞くことに集中する」という目標を持ってデートに臨んだ。目標がシンプルだったぶん、ブレなかった。

自分を良く見せようとしなくなった

「面白いことを言わなければ」「頼りになる男を演じなければ」という気負いが、今日はなかった。等身大の自分で話していた。それが逆に自然な会話を生んだのかもしれない。

断られることへの恐怖が薄れていた

日記①から⑥まで、何度も断られてきた。その経験が積み重なって、「断られてもまた立ち上がれる」という感覚が身についていた。その余裕が、焦りのないデートにつながった。


撃沈続きだったからこそ、この一言が特別に感じられた

「また会いたい」という言葉は、それ自体はシンプルな5文字だ。

でも、半年近く撃沈を繰り返してきた人間にとっては、その5文字が信じられないほど重かった。

うまくいかない夜に缶ビールを空けながら、「自分には無理なのかも」と思ったこともあった。「もうやめようかな」と思ったこともあった。それでも続けてきた。

その積み重ねがあるから、今夜のこの一言が特別に感じられた。

撃沈したことは無駄じゃなかった。全部、今夜のこの瞬間につながっていた。

そう思えた夜だった。


まだ、終わりじゃない

Cさんとの関係がこれからどうなるかは、まだわからない。

2回目のデートが実現するかもしれないし、またフェードアウトするかもしれない。マッチングアプリはそういうものだと、もう知っている。

でも今夜は、それを考えるより先に、ただ嬉しかった。

53歳、バツイチ、撃沈7回目にして初めてもらった「また会いたい」という言葉。

この言葉をもらえるような自分になるまで、半年かかった。でもなれた。それが、今夜一番の収穫だ。


次回の撃沈日記⑧では、Cさんとの2回目のデートについて書く予定です。今度こそ、ちゃんと「また会いたい」を繋げられるのか——続きをお楽しみに。